再審・えん罪事件全国連絡会の第28回総会が12月1日~2日、滋賀県大津市内で開催され、加盟13事件3団体、2日間で合計93人が参加しました。総会では、この1年間の諸事件の活動が報告され、再審法改正をめざす活動方針を採択し、新たな役員を選出しました。
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再審・えん罪事件全国連絡会の第28回総会決定
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役員体制
>>採択した特別決議
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冤罪被害者の声に応え、再審法の改正をたたかい取ろう!
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西山美香さんの無罪判決および捜査機関の違法捜査と証拠隠しの断罪を求める決議
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日野町事件の再審開始決定を求める決議
穏やかな秋の日差しが窓から差し込む会場。地元の国民救援会滋賀県本部から中野善之助会長が歓迎の挨拶をおこないました。中野会長は、日野町事件と湖東記念病院人工呼吸器事件の支援を訴えた上で、「再審制度が無実の人を救う制度として不備がある。制度の改定に向けて奮闘する」と述べました。
■再審制度の問題点を指摘
今回の総会では、再審開始決定が取り消された大崎事件の最高裁不当決定を跳ね返すべく、支援運動の飛躍をめざして「再審をめぐる情勢と課題について」と題して龍谷大学の斎藤司教授が記念講演をおこないました。斎藤教授は、大崎事件の再審開始を取り消した最高裁決定の特徴を解説し、「最高裁は、再審開始の条件について、有罪判決に合理的疑いがあるという程度の証明では足りず、再審請求人が有罪であること自体に合理的疑いが存在するかという観点で判断している」と指摘。また、「有罪を認定した裁判の証拠構造を組み替えて補修し、確定判決が強固なものだと認める一方、新証拠の証拠価値を弱くみて、一定以上の強い証明力を持つ新証拠でなければ再審を認めるべきではないとする最高裁の論理がうかがえる」と最高裁の判断を批判しました。その上で再審法制をどう改善するかについて、現状の再審制度が裁判官の職権にゆだねられており、再審開始のためには積極的な職権発動が求められている。裁判官が職権をリードするためには、全証拠にアクセス可能な検察官と同程度の情報量を有していなければいけない。そのためにも、検察がすべての証拠を開示が必要だ」と述べました。
■2事件の弁護団が状況報告
今回の総会は、再審をもとめてたたかう2事件の支援強化もねらい、滋賀県で開催されました。総会で2事件の弁護団が、裁判の現状についてそれぞれ報告しました。
大津地裁で再審公判を控えている湖東記念病院人工呼吸器事件の池田良太弁護士は、10月になって検察が有罪立証を断念し、今年度末までに判決が出される見通しになったと報告。「警察が検察に未送致だった捜査報告書を見て有罪を維持できないとして方針転換したようだが、実は無実だと分かっていながら有罪立証にすすんだ証拠があると見ている。手元にある証拠をすべて出せと主張している」と述べました。
再審開始決定を勝ちとり、大阪高裁で即時抗告審をたたかう日野町事件の玉木昌美弁護士は、高裁に係属して1年以上経過しても審理に向けた三者協議が開かれておらず、裁判所が「今は必要性を認めない」と拒んでいる状況を報告しました。最後に裁判批判の市民運動に当てつけて「雑音に耳を貸すな」と述べた裁判官がいたことを例にあげ、「裁判官は雑音を気にしているということ。「こんな恥ずかしい有罪判決を維持していいのか」という声が圧倒的な世論になったときに、裁判官が再審・無罪を出す。運動をもっと広げよう」と述べました。
事件当事者として、湖東事件の西山美香さん、日野町事件の阪原弘次さん、東住吉事件国賠の青木惠子さん、布川国賠の桜井昌司さん、今市事件の勝又イミコさんが支援へのお礼と裁判勝利への決意を訴えました。
■再審法改正をいかに勝ちとるか
2日目は、この1年間の活動報告と、再審法改正をめざす活動方針を瑞慶覧淳事務局長が提案しました。討論では、再審法改正に向けた運動について活発に議論され、各地の地方議会決議採択運動の取り組みの状況や、どうやって市民的な広がりを作るべきかという悩みが語られました。
関西冤罪事件連絡会の伊賀カズミ共同代表は、大阪に再審法改正をめざす市民の会を結成したと報告。大阪選出の国会議員44人を訪問する計画をしていることや、府下の地方議会に対し、再審法改正を求める決議の採択を要請して、各会派を回っている状況が報告されました。
神戸質店事件を支援する会の世話人をつとめる新谷良春さんは、神戸西区で超党派の市民の会を作ろうと計画していると報告。地元選出で弁護士出身の与党国会議員や、冤罪撲滅を活動の柱の一つにしている自民党県議などに働きかけていくなどと述べました。
豊川幼児殺害事件田邊さんを守る会の渡辺達郎事務局長は、2019年に高裁で再審請求が棄却されてからは、宣伝行動などで再審法改正のことを話題にしているが、のれんに腕押しのように感じると報告。市民に分かりやすいビラが必要だという意見や、事件の署名のように、市民がどれだけ理解したかを測るバロメーターがほしいと述べました。
再審・えん罪事件全国連絡会の運動の方向性について新倉修共同代表は、「記念講演を斎藤司先生に講演してもらったことは大きな意義がある。学生は、冤罪当事者から話を聞くと、どうにかしなければと思う指向性を持っている。ゼミを持っている大学教授と接点を持ち、要望を聞きながら情報提供をするやり取りをすすめたい」と話しました。
■代表委員に神奈川大学・白取教授を選出
総会で、あらたに神奈川大学の白取裕司教授が代表委員に選出されました。白取教授はあいさつの中で、「ゼミ生には冤罪に関心を持つ若者も増えてきたが、支援活動が『無報酬でおこなわれている』と聞くと驚く。市民がどういう形で冤罪事件を支えているのか、学生に伝えながら、若者にもつなげていきたい」と述べました。
閉会の挨拶で代表委員をつとめる国民救援会の本藤修副会長は、「社会の変化に伴い、最高裁の官僚的統制の中で判決・決定をしていた裁判官の判断基準も変わってきた」として、性犯罪や強制わいせつ事件の成立要件の変化や、国公法弾圧堀越判決での、国家公務員による政治活動一律全面禁止する最高裁判例について東京高裁が「時代が変わっている」と批判的に述べたことを紹介し、「裁判所が判例や最高裁の統制をうちやぶって、道理のある判決をする決め手は世論だ。新しい時代、社会はこう変わったと裁判所に届けるのが私たち支援運動の新しい挑戦だ」などと締めくくりました。
なお、本総会で再審法改正を求める決議、日野町事件および湖東記念病院人工呼吸器で再審無罪を求める決議が全会一致で採択されました。総会終了後、参加者は西山美香さんらと大津地裁に赴き、総会で採択された無罪判決を求める決議を持って要請行動をおこないました。